アクタさん投稿小説『碧翼の天使』其の7(完)


 「・・・・武内優香さん。
  何故、あなたは私の邪魔ばかりするのです?」


 ゆっくりと優香は歩いていく。一歩、一歩。
 
 前に踏みしめながら・・・・・しかし、ミランダの質問には答えない。
 
 「私は貴女のご両親の希望を叶えました。
  ご両親はこの世界を変えたがっていた」

 
 その言葉に・・・眉をひそめ、
 それでも優香はミランダを見ながら近づいていく。
 
 半年前。ミランダの手によって・・・東京は壊滅し、
 あの世界樹の前で優香は今と同じくミランダと対峙した。
 
 そして、無念無想の境地、その一瞬が勝敗を分け、
 『女神の果実』を霧散させた。
 
 それから半年、優香はこの日を、
 この再戦を予感していたのかもしれない。
 
 桂に言われたとき。全ての過去をここで絶つ事を誓った。
 誰にも迷惑をかけず、ミランダを討つこと。
 
 それが・・・・・謝華によって動かされてきたもう一人のボク、
 そしてミランダによって未だ生死不明の両親を探すことを・・・・
 ここで一端、終わらせる。
 
 仲間たちは・・・未来に向かって歩き出している。
 
 潤も聡美も、かおりさんもエリナも、真奈美ちゃんも千穂も綾子さんも・・・レイミも。
 そして、まだ見ぬ強敵たちも・・・・・

 こんなところで止まっているわけにはいかない。
 
 「ボクは変わるよ。ボク自身の力で・・・・・
 
  ボクはもう立ち止まらない。後ろを気にしない。前を見て走る。
 
  ミランダさん・・・・ボクにとって・・・キミは、もう後ろだよ?」

 
 言い終わらないうちにミランダは咆哮を上げながら襲い掛かってくる。
 
 その疾走に優香はどっしりと腰を落とし、
 身構えるかつての右構え。
 
 繰出される手刀突き。
 鋭利な槍の如き攻撃を捌き、優香は拳を振り上げる。
 
 身体を反転させて避けるミランダ。長い金髪が靡く。
 鞭のようにしなるミランダのハイキック。それをガードしつつ右に絞った拳が輝く。
 
 気の連撃。それを払いミランダも気をぶつけてくる。
 レイミの攻撃に似ていながら彼女の清々しさ高潔さを感じない・・・薄暗い憎悪のような気。
 それに顔をしかめつつ受け止める。
 
 流れるようなコンビネーション。
 両手両足から繰出される幾千の軌跡。優香はそれを食らい昏倒寸前。
 
 しかし、それにあわせるように優香もまた攻撃をつないでいく。
 気と気を込めた応酬。
 
 「韋駄天足!」
 
 ミランダの高速移動と優香の高スピードからのハイキックが激突。
 火花を散らして鍔迫り合いをする交差された足と足。
 空気の爆発。
 
 圧縮された気が水蒸気爆発を生み、
 優香とミランダはお互いに距離を取って対峙する。
 
 幾度となく打ち込んだ攻撃によってミランダは満身創痍・・・・
 しかし、その倍の攻撃を受け優香は立っているのが奇跡と思えた。
 
 最強の女神と最強の少女の闘い。
 
 ミランダは薄く笑う。
 ここまで自分を追いつめたものがかつて居たであろうか・・・
 
 ミランダは優香を賞賛する。
 自分に歯向かい続けた愚かな少女を。
 
 「まったく・・・・おかしな存在ですこと。武内優香。
  ふふふ・・・あの時感じたことが確かだったとわかりましたわ。
  そして・・・・今度こそ私の勝利ですわ。」

 
 かつての対峙の際に感じた一つの迷い。
 それがミランダにはあった。

 そのバカ正直さにミランダは敗北したのだ。
 幾度も受けた優香の拳がミランダにそれを分からせた。
 
 故に・・・・
 
 彼女に引導を渡さなければならない。
 
 おかしな少女だった。
 自分が生きてきた百年以上の時の中でこんな馬鹿な・・・
 しかし、愚直なほど真っ直ぐな少女はいなかった。
 
 だが、それもこの闘いで理解した。
 すでにミランダは確信している。
 自分はこの少女の様にはなれないと・・・・・

 ならば、すべきことは知っていた。
 
 ミランダの身体から立ち上る気。
 それがゆっくりと膨らむのを見て、優香もまた覚悟を決めた。
 これが最後の一撃になるだろう。
 
 引き絞る弓の如き最後の一撃。
 それが満身創痍の優香にできる最後の手段。
 
 「死になさい!ネメシス・ハイロゥ!!!」
 
 ミランダから立ち上った気が一点に集結。
 白夜の光。
 
 爆発音とともに世界を震撼する衝撃波となって
 大聖堂を一瞬にして消滅させた。
 
 白亜の大聖堂は土台を残すのみ。
 
 壁も、十字架の祭壇も椅子も机も懺悔室も全て・・・
 ミランダの周りにある全てを分子レベルで溶解させた攻撃。
 
 前に立っていた少女もまた・・・・消え去った。
 
 圧倒的な勝利。
 その余韻に酔いしれようとしていたミランダは淡い光を感じた。
 
 それは合気を極めたミランダだからこそ見える命の灯火。
 その光はゆっくりと・・・しかし、時を経過するごとに強くなっていく。
 ミランダは周囲を索敵し、上を見上げた。
 
 そして・・・・・凍りつく。
 
 碧の翼を生やした天使。
 その天使に抱きかかえられ拳を引き絞るポニーテールの少女に。
 
 ミランダの核爆発のような気が弾ける寸前。
 動けない優香はその場から強い力で奪われた。

 視界を覆う濁流のような衝撃波の海。
 大津波に飲まれた様な感覚。
 しかし、優香は背後に強い力を感じる。
 
 暖かな母親の様な・・・包み込むような感触。
 安らかな安堵感。
 
 優香は知る。
 
 【ライゼリカ】・・・雷の少女。
 
 蒼と黒のバーニア。
 
 四本の円柱に突き出した突起が淡い碧の光を帯び、放電を開始する。
 碧の雷光。それが・・・桂の兵装。
 
 「優香・・・この力を使って・・・
  私、思い出したことが一つあるの。それはね一つの約束。」

 
 この機甲を与えられた時・・・
 少女はある女性科学者に一つの思いを託された。
 
 自分を探す娘の為に・・・
 その娘を護ってあげてと。
 
 それが【キーワード】
 
 この自分すらも忘れていた兵器の名前・・・
 その人の娘の気とシンクロすることによってのみ
 安全制御を解除され、その娘を護る装備。
 
 淡い光。
 碧の雷光は桂の身体から優香の身体へと流れ込む・・・・
 
 握り締められた拳。
 それがより一層の輝きを紡ぎだし、
 優香と桂の身体が・・・碧色に光り輝く。
 
 「これは・・・・何?」
 
 「私の隠された兵装の一つ。
  額に内蔵された【Gクリスタル】の発動形態。
  これによって私は変化する。人を護る機体へと・・・・・」

 
 既に桂の装甲は蒼と黒ではない。
 その色は1色。・・・翡翠色。暖かな碧。
 
 「さぁ、決着をつけましょう。・・・・優香。
  私の、そして、あなたのお母さんの思いが」

 
 「流れ込んでくる。
 
  桂ちゃんの気から・・・・ボクのお母さんの思いが」

 

 『究極・・・気洸弾!!』

 
 二人の思い。
 
 そして・・・・記憶された母のメモリーによって打ち出された碧の大奔流は
 一直線に謝華ミランダを飲み込んでいく。
 
 
 その衝撃は・・・
 かつて抱かれたであろうミランダの母の暖かいぬくもりにも似た。
 
 優しい、そして母の厳しさを秘めた一撃だった。

 
 

 
 夕方・・・・激闘の跡。
 百年以上を生きた謝華ミランダはその瞳を閉じた。
 
 優香や桂に見送られ・・・・・静かに長かった一生を終えた。
 その笑顔は安堵した顔。
 
 女の未来を憂い、そしてその思いゆえに間違ってしまった女性は今・・・・
 本来の自身に戻ることが出来たのであろうか?
 
 謝華ミランダではない私たちにそれはわからない。
 
 しかし、私は彼女に誓った。
 武内優香とともに生きると。
 
 私の名は【ライゼリカ】雷の少女。
 
 既にこの身体は人ではない機械の身体。
 
 身体に埋め込まれた【Gクリスタル】が教えてくれる。
 それでもよいのだと・・・・・
 
 成さねばならない約束・・・・・・・・。
 それが、私がここにいる意義だと。
 
 「これからは・・・・ずっと一緒にいようね?」
 
 優香は笑顔で笑い、
 そして武内優香に・・・・妹が出来た。


     (完)

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