アクタさん投稿小説『碧翼の天使』其の2


 「こんばんは。優香さん。いいお月様ですよね?」

 春の暖かさに包まれた月夜。満天に咲く桜の淡いピンク色の中で少女は笑顔で優香を迎える。
 ここは八王子にある忘れられた山城跡。兵どもが夢の跡。

 神社の奥にもうけられた細い山道を抜けると開けた石畳にでる。
 広大な郭跡。苔むした石垣。夜の暗闇によって底が見えない堀の跡・・・・

 その本丸跡にあるフェンスに囲まれた公園に桂は待っていた。

 「・・・・・すごい所だね? こんな場所があるなんて知らなかったよ・・・ボク。」

 「私のお気に入りの場所ですから、ここならちょっと騒いでも大丈夫ですよ」

 クスリと笑う桂。につられて笑う優香は、笑顔でさっと構える。

 ハンナミラーズの制服。
 手にはオープンフィンガーグローブ。下は素足でレガース。
 本丸跡は一面の草原でその指の隙間に踏みしめる毎に感じる感触はくすぐったくも心地よい。

 対する桂は店内で見せた昨日と同じ『リュック・ボーイ』の制服に肘の部分、
 膝の部分に黒いパット。黒のグローブに編み上げのブーツ。

 「桂さんは・・・・今度のVGに出るの?」

 「いいえ、アルバイトですから・・・・任務完了次第で仕事は終わりです。」

 「残念だな・・・・桂さんなら優勝、狙えるのに?」

 「そんな・・・・事いっても、ダメですよ?」

 「・・・・・・・本当に、するの?」

 「えぇ、契約金は既に貰ってしまっていますし。
  それにアナタと闘いたいって思っている自分がいるンです。・・・・・・・・・おかしいですね?」

 いきなり、言い終わるとほぼ同時に、
 桂は腰から腕を交差して月光に反射して鈍く黒光りする筒状のものを引き抜いた。

 それが拳銃だと視認する前に銃口から火花が噴く。

 咄嗟にかわす優香。
 それがわかっていたとでも言うように桂は牙を剥いて笑い優香に殺到する。

 うなり声とともに両腕から繰り出される弾丸の軌道。
 一つ一つが殺意を帯び、一撃必殺となって優香の身体を貫かんと疾走。

 優香は闇夜に関わらず、
 卓越した動体視力と、銃口から発射された発火から弾道を予測しかわしていく。

 繰り出される豪雨のような銃撃。響く破壊の音色の中で踊る優香。
 攻撃をかわし、手に持つ拳銃の弾倉が空になるまで優香は身をかわす。

 身を捻り、体を崩さぬようにすぐさま体勢を入れ替えていく優香。
 正確にカウントしていく弾の数。それが終わった時・・・・それが優香の反撃の時。

 耳障りな金属音。撃鉄は空音を鳴らし、途端に物言わぬ模型に成り下がる。

 的に標準を搾っていた桂の舌打ち。
 急いで替えのマガジンに換装しようとする一瞬、優香は間合いを詰めていた。

 つかず離れずキープした絶対の間合い。
 どんな武道を嗜むものでも一速では踏み込めない 離れすぎた間合い。
 それを考慮し、年頭において闘っている桂。だが、その考えは甘すぎた。


 『・・・・韋駄天足!』

 呟きは桂に聞こえたであろうか?
 夜風に乗って栗色のポニーテールは風に道を作り、神速の風となって桂にむかって殺到する。

 それはまさに突風。人間の視覚、人知を超えた攻撃。
 銃に頼った攻撃をしている桂にとってそれは自分に襲い掛かる殺意を帯びた鎌鼬。

 桂の表情がみえる。その顔は唖然として・・・・・・
 全体重を乗せた体当たり・・・・・から終わらせる為の右上段からの回し蹴り。
 首を凪ぐ一撃。相手の首は優香の攻撃を喰らって、失神しながら吹き飛ぶ・・・・・


 そのハイキックが・・・・空を切る。

 確かに、体当たりは当たり強い衝撃とともに桂が後ろに吹き飛ぶのを感じた。

 しかし、次の瞬間。背中に鋭い痛みとともに優香は前へ吹き飛ばされる。

 韋駄天足は確かに当たった。

 体当たりに桂は後ろにのけぞり、
 その攻撃が自分の想像していた以上の力だと嬉しくなりそして・・・・跳んだ。

 その韋駄天足の衝撃を反動にして、地をけって、
 韋駄天足の真の一撃であるハイキックを八艘飛びよろしくかわし、
 がら空きになった優香の背中に発砲したのである。

 しかし、その威力は今までとは十倍の殺傷力。
 まるでグレネード砲でも使ったかの様な痛みと全身が麻痺するような緩慢。

 うずくまる優香を見下ろしながら桂は冷笑。

 「あのさぁ〜あなたが武内優香だと知って挑んできているのに
  何の変哲もない得意技で仕留めようなんて随分、嘗められたものね?」

 「・・・・・桂・・・さん?」

 「銃を撃ったのはアナタにただの拳銃使いだと思わせるため。
  ダメだよ? 戦闘はすべてバカ正直にしちゃ・・・・慣れが一番怖いンだから。」


 「あと、私、実は十五歳なの。・・・・・二十歳じゃなくてゴメンね?
  でも、素直に信じた優香が悪いンだよ? だーいち、こんなロリロリ居るわけないジャン?」


 「・・・・・・桂」

 「そっ、騙されていたのアンタは。ちなみに桂ちゃんね?」

 ゆっくりと、しかし緩慢に荒い息で立ち上がろうとする優香に桂はなおも饒舌。

 両手の拳銃を器用に回しながら満身創痍の優香の姿を笑う。

 「まず、第一に優香は私の能力に気がつかなかった。」

 肩で息を継ぎながら俯く優香。
 脇腹と背中、首筋、背骨からは激痛。
 動かすごとに節々は酷く痛み、そして・・・・・味わった心の痛みが優香をさいなむ。

 演説は続く。
 優香の敗因をその身と心に刻み、戦意を失うように。

 「私もアナタと同じ、「気」が使えるの・・・・」

 拳銃を腰のホルスターへ突っ込むと指を弾く。

 立ち上がろうとしていた優香は突然の突風と体に突き刺さる熱い衝撃に
 声にならない悲鳴を上げて落下防止用のフェンスに激突。
 身を預けるように崩れ落ちる。

 それにゆっくりと笑いなから、一歩、一歩、近づいていく桂。

 「そぅ、私の能力は『衝撃波』を作り出すこと。

  アナタが受けたのは衝撃波の弾丸だったって訳。
  全て急所の徑穴に当てさせてもらったわ。だって無防備だったから。

  普段なら気を全身に張り巡らせて直撃でもダメージはほぼゼロでしょうけど、
  無防備だとフツーの女の子と変わらないからね?・・・・まだ、戦意喪失じゃないよね?」

 歯を食いしばってフェンスを強く握り締めて立ち上がろうとする優香を桂は一瞥。

 「なら、本心を語ろうかしら」

 「・・・・・・・・ほ、本心?」

 優香の呟きに会心の笑み。
 それも邪まに顔の端、口元を耳まで歪ませながら

 「武内優香・・・・アナタを病院送りにするのはウソ」

 「私のペットにするためだったの・・・・・ここでアナタを犯して私のモノにするの。
  素敵でしょ? だって、他のお店の人はアナタの事、キライらしいから私に譲ってくれたの」


 桂は笑いながらゆっくり優香をいたぶるように衝撃波で攻撃しながら喋る。

 打ち出される熱風の衝撃に翻弄され、
 強くフェンスに押しつぶされ、打ち付けられていく優香。

 既に桂の無慈悲な連撃によって制服はボロボロに千切れ
 豊満な乳房には赤いミミズ腫れが幾重にも刻まれ、ポロリと胸元からこぼれ落ちる。
 エプロンは痣をつくって身体は痛みも酷い。

 体育座りの様にフェンスに背中を預けてうずくまる優香。

 つまらなそうにそんな優香を足蹴にしていく桂。繰り出されていく無慈悲な前蹴り。
 嵐の様な、傷ついた優香をさいなむストンピングの豪雨。

 編み上げのブーツの靴底が優香の乳房を激しくなじる。
 優香の顔目掛けて繰り出した回し蹴りが頬を張る。

 屈服させようとする桂のキックの嵐。服従しろと囁く桂の調教。
 ただ我慢するだけしかできない優香に残酷な表情になる桂。

 執拗ななぶる攻撃。
 疲れると一端、離れて至近距離から気の衝撃波を浴びせる。

 その暴風雨のような攻撃を受け止めながらゆっくりと身体を回復させていく。
 それに気付かず桂は攻撃を加える。無慈悲に、残酷に心が折れるまで・・・・

 「気に入らないわね? その目、まだ勝機があるとおもってンの?」

 優香の桂を見据える瞳は攻撃の中にあってもその輝きを曇らせていなかった。

 「そんな目で睨まれたら・・・・
  その顔、ぐちゃぐちゃにしちゃわなくちゃいけないよね」

 今度は勢いをつけ、
 優香の顔面を靴底で押し潰さんとする距離をとって繰り出した前蹴りに・・・・・

 優香はタイミングを合わせる。


 『蒼龍撃!』



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