アクタさん投稿小説『碧翼の天使』其の3


 『蒼龍撃!』

 軋みを上げた拳に気の光が灯り、桂の顎目掛けてほぼ一直線に伸びるアッパー。
 それに後方に吹き飛ぶ桂だったが、すぐさま、一回転して着地。

 「バッカだねぇ〜気付かないとでも思ってンの? 油断なんかしないって。」

 「・・・・・・そうかしら?」

 痣だらけになりつつ立ち上がった優香。桂の嘲笑にゆっくりと握ったものを突き出す。
 それは桂がつけたツインテールの一房を縛っていた赤いリボン。

 それを見た桂は笑うのをやめ・・・・・瞳を細くして無表情になっていく。

 「返してよ・・・」

 淡々とした口調。優香に手を突き出してリボンを返せと呟く。

 それを無視して優香はリボンを握り締め、片手を前に突き出しその対を脇へと絞る。

 「・・・・・・・・・返してよ!」

 桂の絶叫とともに腰から引き抜かれたのは折りたたみ式の軍用の重機関銃。

 排莢されていく弾は雨どいの雫の如く湯水の様に桂の足元へと落ち、
 その全弾が桂の気を帯びて凶悪な爆発力をとなって優香へと襲い掛かる。

 それはまさに必殺の十字掃射。

 気を全身へとめぐらせ滑るように草原をダッシュする優香。
 爆発とともに優香がうずくまっていたフェンスは千切れとび、
 悪鬼と化した桂は優香を逃がすまいと踊りかかる。

 優香は走りながら絞っていた拳を解放するが、
 打ち出される気弾は暴風雨の中で細切れになり散り散りにされる。

 莫大な量の殺意が込められた弾丸。
 一発、一発がまるで手榴弾。爆発と閃光、土煙と破壊を上げて城を燃えさせていく。

 殺意の塊となった桂は動く。優香を殺すために。

 打ち出された気の連弾を迎撃し、腕を振って、衝撃波を優香へ叩きつける。
 その風は中に雹を包んだ爆撃。怒りによって無尽蔵に弾丸は繰り出されていく。

 しかし、優香には当たらない。
 広大で濁流のような攻撃だが、正確さを欠いていた。

 「はっ!」

 懐に飛び込み鋭く振り落とした優香の手刀が、マシンガンの銃身を捻じ曲げ、
 間髪入れずに突き出された片方のマシンガンの猛射に身を捻ってかわし、
 ありったけの今出来る気弾を桂の鳩尾に叩きつける。

 小さく喉が鳴り、歯軋りの音とともに桂はマシンガンを投げ捨て、グロック17Lを引き抜く。
 標準は眉間。だが、それよりも早く、優香のハイキックが桂の両手を薙ぐ。

 拳銃を取り落とす桂。

 それに優香は震脚。力強く大地を踏みしめ、この闘いを収める一撃を放つ。

 無心無想の境地。この一撃に勝機の全てを賭けて・・・・・・


 『鬼龍韋駄天撃!』


 鈍い音とともに交差された桂のガードを割って優香の拳は桂の顎を撃つ。

 高く登りつめるような昇龍の如く打ち出された優香の悪心を絶つ牙は、
 桂の心に巣食う虚無を噛み砕く一撃だった。

 遥か上空まで吹き飛び、月の綺麗さに見とれ、顔面から落ちていく桂。
 強かに打った頭。朦朧としたなかで見た・・・・優香の視線。抱き寄せられ呟いた言葉。
 
 「・・・・・・ゴメンね?」

 それに桂は・・・・・・勝てないなと納得。

 ゆっくりと意識は混濁して・・・・眠るように意識は暗く落ち込んでいく。
 遠くに聞こえてくるサイレンの音と共に、これからの自分の処遇を桂は嘲笑した。


 


 「痛ッタァー!」

 飛び起きてみればそこは警察の監獄ではなく、いいにおいがする部屋。

 「あっ、起きたの・・・・・大丈夫、桂ちゃん?」

 「って、何で、優香が居ンの? 此処ドコ?」

 「ボクの部屋だよ。あの後・・・・・ボクのうちに連れて来たの。」

 「はぁ? だって私、アンタを殺そうとしたのに・・・・・・?」

 「桂ちゃんは嘘つきだから・・・・・・この銃、全部、玩具だし。」

 優香が手に持って見せている銃器は・・・・
 全て、エアガンの類。殺傷力はほぼナシ。

 「それに桂ちゃんの攻撃、寸止めされていた。
  あの風の攻撃だって吹き飛ぶだけで後々響かない・・・・
  本当は桂ちゃん、銃とかで攻撃するタイプじゃないのかなって?」


 「そこまで看破されちゃうもンなの? 敵わないな・・・・・」

 まじまじと見つめる優香。その視線の訴えに桂は嘆息一つ。

 「まぁ、私はぶっちゃけちゃうと裏切り者なの。
  かつては謝華ミランダが組織した私設兵団・機甲少女軍【ライトクーゼリカ】の一人だった。

  でも、その思想に疑問を抱いたの。
  知っているでしょ?東京包囲した軍事クーデター。半年前のことだからね?」


 「うん。潤や聡美が言っていた。・・・装甲服の少女たちと戦ったって・・・」

 「私たちはVG選手と優香たちと戦うために訓練してこの紋章、
  ・・・・装甲を身体に転移して戦う技術を施された。
  もともと、私たちは皆、何かしらの境遇だったから喜んで研究に協力したわ。

  でも、聞いていたのとする事は全然違った。
  だから私は、率いていた仲間たちとともに組織を逃亡した。

  最初は数人だった私たちも今では他の仲間たちを解放し、
  謝華レイミの庇護の下、レジスタンス組織を結成し戦っているの。

  国連直属公式部隊なのよ。【ローゼリカ】は。

  ・・・そして、これが最後の作戦になるわ。私たちは追いつめたの。

  謝華ミランダの私設軍隊【ライトクーゼリカ】はあなたたちとの闘いでほぼ壊滅。
  今は幹部クラスの将校が残っているだけ、だから」

 ※『SS』=特殊機工装甲水着の総称。
 一見するとただの鎧が付いたレオタードに見えるそれは通常弾をはじき返し、
 体内の【気】を動力にして稼働する《スペリオルコンバットインナー》の総称。

 空中高速移動、ビーム砲などの装備とともに次元格納装備を一般スペックに持つ。
 ナノマシンの活性化によって物質を分子レベルから再構成する技術を使って
 年端もいかない少女たちに装着させ戦いへ赴かせた。

 しかし、その可愛らしい外見と裏腹に、
 彼女たちは単機で一個大隊を壊滅させる能力を持っている。

 「ボクに協力させるためだったんだね?」

 「まぁ、ね。この身体に彫られた特殊データと接続してSSを纏う私たちと互角以上に闘えて・・・
  私たちが束になっても勝てないあのミランダに
  唯一勝ったというあなたに協力を要請したいと思って・・・・・」

 桂が話した事。
 それは優香の人生の中で宿命とも言える起因、ミランダの事。

 「そういう事なのだけど・・・・ゴメンね。協力はダメかな?」

 桂は優香に是非を問う。謝罪とともに協力を要請してくる。

 「いいよ。桂ちゃんとはもぅ友達だし、ボクでよかったら何でも言って」

 「ホントに? 迷惑じゃないかな・・・・」

 その返事はたった一つ、優香は桂に微笑む。

 「迷惑じゃないよ?おじいちゃんが言っていた。
  『困っている人がいたら手を差し伸べなさい』って・・・・だから、ね。」

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