アクタさん投稿小説『碧翼の天使』其の4


 現・【ローゼリカ】最高司令部・謝華ビル。
 謝華レイミ指揮の元、作戦会議は速やかに進む。
 
 敵軍の駐留位置。警備体制、トラップの配置。
 優香には先日の桂との戦闘がこれの練習だったことがわかる。
 銃器を想定した戦闘。
 
 最後に作戦決行にあたり、
 作戦指揮官であるレイミが優しい微笑みで優香に感謝しつつ発言する。
 
 「今回の作戦行動において・・・
  私は、首謀者・そして、私の母である謝華ミランダの拿捕および、
  ライトクーゼリカ残存兵力の武力による排除を決定しました。
 
  現在・・・ライトクーゼリカは【ローゼリカ正規部隊】との交戦によって
  その数を数十人まで減らし、各基地もほぼ【ローゼリカ】の管理下に置きました。
 
  しかし、残存勢力、そして母ミランダは健在しているこの東京湾沖の再開発地区に集結し、
  大掛かりな反攻作戦を展開しようとしているとの情報が柳生忍軍の協力の元、千穂から提供されています。
 
  ・・・・その詳細は不明ですが、
  ライトクーゼリカが本格的に動き出す前、仕留めます。
  では、この作戦指揮である桂・・・続きを」

 
 桂は、協力を申し出てくれた優香に感謝。
 
 「武内優香さんの作戦に協力感謝いたします。
  斥候からの報告によれば、これから私たちのみでの潜入。
 
  しかし、私はこのチームならミランダらの野望を食い止め、
  仲間を解放出来ると信じています。
 
  作戦開始時刻はこれから二時間後・・・・
  ブリーフィングは終了します。お疲れ様でした。」

 
 席を立っていく音。
 
 会議室から出て行く人々に武内優香はその中に入らず桂に疑問を投げかける。
 
 これから自分が行なうのは戦闘。
 相手は訓練され機甲服を着ているとはいえ普通の女の子たち、
 それに対して・・・拳を奮っていいものなのだろうか?
 
 「あぁ・・・・それなら平気だよ。私たちの展開するSS。
 
  この機甲水着は、強い衝撃、
  特に気を受けるとその攻撃をSS自体が吸収してくれるの・・・
 
  その代わりにダメージ分は性的エクスタシー・・・
  まぁ、要するに《えっち》な気分にさせちゃうのよ・・・
 
  装着者を淫らにさせる機甲服が壊れるたびに苛む性的興奮・・・
  そしてSSが崩壊すると同時に莫大なエネルギー残量熱がその娘を絶頂へと導いていく・・・・
 
  だから平気だよ?優香が気に病むことはない・・・・・それに、」

 
  言葉を切った桂に優香はその続きを聞くために桂の顔を覗き込む。
 
 「それにね・・・・一度、経験すると、
  もぅ、フツーじゃいられなくなっちゃうの。あれ。」

 
 桂の顔が赤く・・・・それを思い出して、淫らに歪む。
 
 「桂ちゃん?」
 
 「はっ・・・・ごめん、ごめん。ちょっと思い出し笑いしちゃってた。」
 
 口を拭う桂に・・・・優香はじーっと見ている。
 
 桂は悲壮感を感じさせず・・・
 どこかこれからの事を楽しんでいるようだから。
 仲間を傷つける事に何の躊躇もないのだろうか。
 
 「まぁ、フツーはそうなんだろうケド 
  SS機甲水着はどんな攻撃でも護ってくれるもの・・・
 
  それを知っているが故の安心かもね?
  ねぇ、優香。そんなに信用できないなら・・・試してみる?」

 
 「えっ、でも・・・・・」
 
 突然の桂の申し出に優香は面食らう。
 
 「これから攻め込むンだから・・・
  その時になってSSが展開できなかったら困るし、
  稼働状況をチェックしたいンだよね・・・・付き合ってくれる? 最終調整。」

 
 「でも・・・・」
 
 「悩んでいるなら・・・・
  ぱーっと吹っ切れることしないとダメだぞ?」

 
 浮かない顔の優香に無邪気に笑いかける桂は
 返答を渋っている優香に見かねて通信機からその旨を伝えてしまう。
 
 「さぁ・・・これで既成事実成立。
  それに本当の実力知りたがっていたよね?
 
  私の実力これから命を共にするパートナー。
  やっぱりお互いに実力は知っておきたいでしょ?」

 
 それに・・・・桂はっと身震いすると機甲鎧を展開する。
 ・・・優香は驚くしかない。
 
 
 桂の身体からせり出して来る蒼と黒の装甲。
 小ぶりだった乳房は豊満にふくらみ、身体はふくよかな流線形を帯び・・・
 一分も立たずして桂は物々しい重装備になる。
 
 「これがSS。気を放出して分子レベルで体中のナノマシンを活性化。
  瞬時に展開できる私の兵装ね・・・・
  どうしたの、優香?そんな呆然とした顔しちゃって・・・・・?」

 
 「桂・・・・ちゃん?」
 
 「何よ?」
 
 「すごく・・・反則だよ?とっても可愛い。」
 
 「ありがとう。 それにSSは対象者の危険時に自働展開するンだけど、
  気を制御しないと大変な事になるでしょ?
 
  ちょっとした事で機甲水着なんか纏っていたら変質者よ・・・・
  一応、認知はされているけど、着ている服を分子レベルから変形されるから
  知らない人が見たら・・・ポルノか、AVの撮影だと思うでしょうね?」

 
 淡々としている桂の先ほどとのギャップに面食らう優香。
 
 拳を振り上げることに躊躇があるボクに対して、桂ちゃんはそれがない。
 むしろ、嬉々として・・・この闘いを望んでいる?
 
 桂の無邪気な澱みのない笑顔・・・・・
 その表情には純粋しかないように思えるほど真っ直ぐで・・・
 そして、優香にはひどく恐ろしく見えた。
 
 人を傷つける事に対して何も感じない。
 何も感じようとしないように見えて・・・・
 
 優香はその価値観、その思いを桂に抱いてしまった。
 
 機甲少女。
 
 その可愛さは同性の優香から見ても感嘆するような
 小柄ながら魅惑的な四肢、すらりと伸びた足、白い腕・・・・笑顔が似合うその表情。
 
 まるで、まるで何も知らない、
 苦しみも悲しみも何も負っていない聖女。
 
 鎧を纏った少女の髪は普段の黒から碧に変わっている・・・
 まさに碧翼の天使。
 そんな風に優香は桂を見て、思った。
 
 「どうする? 優香」
 
 「ごめん。やっぱり・・・・乗り気がしない。少し、休んでいいかな?」
 
 反射的に出た言葉。桂の誘いを断る。
 それが最良の選択だと優香は感じた。
 
 あの自分を見ていた桂の視線。
 それがとてつもなく恐いと感じたから。
 
 笑顔で笑いかける桂。
 その笑顔・・・・はじめて見た時に感じたのは・・・・幼さ。
 
 会議室から桂に背を向けて出て行く優香。
 それを・・・・桂は残念そうな笑顔で視線を送っていた。
 
 「桂ちゃん・・・・・ボクはキミが怖いよ」
 
 幼さゆえの残酷さ・・・
 笑顔の戦闘兵器となった桂の真意が優香には読めなくなっていた。

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