アクタさん投稿小説『碧翼の天使』其の5


 朝日が昇る前・・・
 早朝の東京湾岸に路肩に停車したボックスカー。
 
 降り立ち視線の先には閉鎖されたゲート。
 海原に伸びる一条の高架線。
 
 薄暗い未だ夜の明けぬ東京湾再開発地区。
 かつての名は【ティファニーランド】
 
 東京ディズニーランドに対抗するために作られた
 モン・サン・ミッチェルを模した娯楽のテーマパーク。
 
 半年前の東京封鎖事件で営業を停止し、
 未だそのメドは立っていない。
 
 優香は上下のスウェットスーツを着込み、
 桂は蒼と黒の機甲水着を装備している。
 
 「作戦は封鎖してあるゲートを突破。
  高架線から進入後、園内に到着次第二手に分かれ私が園内に点在する敵を排除。
 
  優香がそのままこの中心部に位置する教会に突入、ミランダを倒す。
  なお、確認してあるだけで三体の高性能SSの存在が確認されているわ。
 
  概要は相手の装甲を破壊すれば相手を傷つけず倒せるから・・・
  しかし、機甲少女は遠距離、中距離からの攻撃に特化した兵士。
  油断していると逆に倒されるわよ?」

 
 桂の注意に優香は頷く。
 ここでは桂の方が有益な情報を知っている。
 
 こんな事は始めての優香にとって桂は頼もしい存在。
 ・・・・・しかし、あの時感じた思いは未だ、心中に燻っている。
 
 「気吼弾」
 
 打ち込まれた正拳突きから強烈な榴弾となって飛んだ優香の気撃が
 頑丈に閉鎖していたフェンスを吹き飛ばす。
 
 飛散った爆風に顔をしかめながら桂は先頭に立って敷地内へ入る。
 そこは真っ直ぐに伸びる線路。開園時にはモノレールか稼働し乗客を乗せていたと桂の説明。
 
 置き捨ててあった作業用のトロッコに入り、コンソールを操作。
 肩の機械からケーブルが伸びてプラグイン。
 電力を稼働させる。

 ゆっくりと動き出すトロッコ。その動きは緩慢。
 それは警備網に引っかからないための配慮。
 
 機甲少女は半機械と融合した生体アンドロイドだと桂は何気ない世間話の様に話した。
 自分たちは作られた存在だと・・・・

 それゆえに自分たちに内蔵された機械が経験した全てを
 戦闘データとして身体に覚えさせると・・・・
 
 それが謝華ミランダの目的だと教えてくれた。
 
 
 機甲少女のSSは自立進化する機械。
 破壊されるたびにそのデータを更新しより強くなっていく。
 VG選手たちとの戦闘がより強いSS少女を生み出す。
 
 だからこそ・・・・
 その前に謝華ミランダを叩くと桂は決意を込めてボクに言った。
 
 「私たちは人間だった時の記憶を覚えている。
  こんな機械の身体に望んでなった訳じゃないけど・・・
  私たちは身体を売るしかなかった。
 
  優香。そんな顔しないで。哀しくなる・・・
 
  私は結構、自慢なのよ?
  ・・・さっきの変形機甲といいこの機械と融合できる身体といい。
 
  優香。あなたと一緒に戦えるのですもの」

 
 速くなっていくトロッコのスピード。
 見える景色はどんよりとした空と暗い海。
 
 桂の機械が低く鳴り響く。
 それに桂はボクに慌てて告げる。
 
 「優香。何かに掴まって・・・・早く!」
 
 轟音とともに車体が揺れる。
 複数の光弾がトロッコに襲い掛かる。
 
 桂はコンソールを操作しスピードを跳ね上げる。
 軋む音とともに緩やかだった振動が激しくなっていく・・・・
 
 窓から覗くと蜂の様に海を高速で飛ぶ人影。
 背中のロケットが淡い輝きで推進力をもたせて機甲少女を飛ばせている。
 
 少女たちの突き出した手。
 機械のグローブが一瞬、光ったと思うと・・・
 ビームが幾本の筋となってトロッコに殺到する。
 
 爆発音。
 シュウシュウと煙を挙げはじめるそれに対して桂は決意する。
 
 「・・・もぅ、持ちそうもない。強行突破するわよ」
 
 「でも・・・どうやって?」
 
 「私に掴まって・・・」
 
 桂の肩から突き出した四本の突起が変形をはじめ、折りたたまれていた機構が全開になる。
 円筒形の突起からさらに円柱が伸び。光を生む。
 
 周囲に展開を始めるブースター。
 桂は優香の身体、腰に手を回してしっかり掴むと
 半壊しようとしているトロッコを破壊し飛び出した。
 
 爆圧に身体が引きちぎれそうな感覚を覚える優香。
 桂の周囲を通過していくビームの幾重にも伸びた筋・・・・・
 しかし、風を生む桂の動きに誰も追いつけない。
 
 目を開ければ・・・・
 朝日が昇り、輝く海の青さ。そして蒼と黒の疾風。
 
 「これがSS少女。私の力の一端ってトコかな?」
 
 優香の身体を抱き寄せながら桂は微笑みかける。
 その笑みが・・・出撃前に思っていた事、怖いと思ってしまった自分を・・・後悔させる。
 
 幼さ・・・二度生まれ変わった桂にとってそれは・・・・
 負いたくもない変化。
 
 淡々とした・・・
 現実を在りのままに受け止め、最善を尽くす機械の身体を得た少女。
 
 「・・・・ごめん。」
 
 「謝るのは私の方よ? それに・・・・ちょっと難点があるの」
 
 優香の呟きに桂は苦笑。
 それは・・・・・
 
 「・・・・・このまま突入すると宣伝しているようなものだから市街地に上空からボクを投棄?
  そのまま、追っ手や基地防衛の砲塔なんかを破壊しつつ囮になる。」

 
 「そぅ、効率的でしょ?」
 
 「作戦通り・・・・にはいかないけど大まかそんな感じだったよね?」
 
 「まぁね。
  ・・・・ところで、中心部、大聖堂付近で落すから着地お願いできる?」

 
 「うん。出来るかどうか分からないけどやってみる。」
 
 「・・・・じゃお願い。」
 
 更に背後のブースターが強い光を放ちスピードが速まる。
 
 「タイミングは・・・優香の方でお願い」
 
 「うん。
 
   ・・・・・・降ろして!」

 
 地上すれすれで離された優香の身体は石畳に着地。
 すぐさま路地に身を隠す。
 猛スピードで飛んで行く桂を追って機甲少女たちは攻撃を繰り返す。
 
 それを避けつつ海岸線にむかって針路をとる桂。
 SS少女同士の空中戦が始まる。
 
 轟音とともに砦が変形をはじめ、中から突き出される砲塔。
 城壁が割れ発射溝から繰り出されるミサイル群。
 
 襲来してくる悪意を桂は不敵に笑って捌いていく。
 
 海上からは自立制御された戦艦2隻が目標に対して砲撃をはじめ、
 市街地からは無機質なロボットたちが桂に向かって榴弾を打ち込む。
 
 それをことごとく踊るように回避していく桂。
 蒼と黒の機影。蒼空の戦乙女。
 
 海を見下ろす砦からは重武装の砲台を肩に担ぐ機甲少女。
 雲霞の如く沸き立つ無人航空兵器の攻撃。
 雨あられの十重二十重の攻撃網をかいくぐるのはエースの動き。
 
 肩に内蔵されたバーニアが展開して轟音。
 裂光のウェルバスター!
 巻き込まれた機体が連鎖爆発を起こし、融解していく。
 
 桂の両手が煌く。
 打ち出された気撃が射撃体勢に入っていた機甲少女を貫く。
 
 悲鳴を上げて落ちていく少女を桂は一瞥。
 すぐさま別の敵に攻撃を開始する。
 
 圧倒的な兵力差。
 それを物ともせずに立ち回る桂を確認して優香は走り出した。
 
 大聖堂へと続く道を。
 囮となって時間を稼いでいる桂の行動を無駄にしないために・・・・
 
 中世の石畳を走る優香。
 
 力強く一歩一歩踏みしめながら、
 スウェットスーツは路地で脱ぎ捨て、戦闘装束ハンナミラーズの制服姿で走る。
 
 閑散とした路地。
 かつては活気があったであろう商店街。
 
 朝日が闇を払拭し明るくなったファンタジー世界の街並みに立つのは
 VG選手・ハンナミラーズのウェイトレス。
 
 轟音を響かせる戦車群。
 それを睨みつける優香。
 
 薬莢が飛散っていく銃の振動。
 機動歩兵たちの自動小銃が火を噴き、優香に殺到する。
 
 しかし、それは一度見た動き。
 
 直ぐに路地に隠れ、迂回してきた歩兵を振り上げた右の上段回し蹴りで迎撃。
 突き出す正拳が機動歩兵の装甲を粉砕。
 
 二階から強襲してくる敵に
 体勢を横にずらして裏拳から気功弾を叩き込む。
 
 吹き飛ぶ敵兵。
 遠距離に切り替えようとする敵に気勢を制して両拳から繰出す気の連撃。
 
 「気吼連弾!」
 
 打ち込まれた気が爆発し進行方向を塞いでいた戦車もろとも全ての敵を吹き飛ばす。
 優香の動きに対して迎撃体制を取るロボット兵士たちをスクラップに変えていく優香。
 
 しかし・・・
 守りの要であろうSS機甲少女は未だ現れない。
 
 遠くから聞こえるのは戦闘の爆音。轟音と共に飛び交う戦場の交響曲。
 (今のところ・・・・桂ちゃんの作戦通りだけど・・・・・)
 
 「SSに対抗できるのはSSだけだからね。
  私が囮になれば園内全て・・・とはいかいけど大部分の兵力を集中させられるわ。
 
  その隙に乗じて、教会の守備についている守りと機甲少女を倒し・・・
  ミランダを討つ。
 
  ミランダは優香、あなたしか倒せない・・・
 
  こちらが攻撃しようとすると先にミランダが攻撃してくる。
  狙撃とかもダメだった・・・・
 
  あのオバサン、もしかして・・・・・ニュータイプ?」

 
 桂の言葉通りの展開になっている。
 しかし、機甲少女が出てこない状況はおかしいと想い始める。
 
 これまでに六度、迎撃にきた警備を倒してきた。
 がそのどれもが機械の兵士たち。
 
 確かに恐ろしい兵士だったが・・・・
 近接戦闘に引き込めばその脅威はなくなった。
 
 思い悩む優香は考え事をしながら路地を曲がる。

 「くっ、〜ああぁぁぁぁ」
 
 そこには目の前に広がる真紅。
 焔の奔流を受けて優香はそのままガードした体勢で壁に叩きつけられてしまう。
 
 延焼はなし。
 しかし、叩きつけられ優香は行動不能に陥ってしまう。
 
 気の攻撃。炎のビーム。
 八島聡美の攻撃を食らった事のある優香でもその攻撃は最悪だった。
 所々、制服は焼け焦げ素肌を晒すことになった。
 
 瓦礫の中、相手の気配を探る。
 
 「あら、裏切り者のライゼリカだと思ったのに・・・違うのね?」
 
 煙の中をゆっくりと歩いてくる女。
 金色の装甲服。長い金髪のツインテールの機甲少女。

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